その花の咲く頃

 萩の花については、私は二三の小さな思ひ出しか持つてゐない。そのいづれもがみな輕井澤で出遇つたことばかりである。その花の咲く頃、私は大抵この村にゐるからであらう。

          ※[#アステリズム、1-12-94]

 いつの夏の末だつたか、鶴屋旅館の離れで、芥川さんと室生さんが、同宿の或る...

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庭の奥に

「伝兵衛、あれを見ろ」 伝兵衛が覗いてみると、葎《むぐら》や真菰《まこも》などが、わらわらに枯れ残った、荒れはてた広い庭の真中に、路考髷を結い、路考茶の着物に路考結び。前髪に源内櫛を挿した等身大の案山子《かかし》が、生きた人間のようにすんなりと立っている。 庭の奥に、社殿造の、閉め込んだ構えの朽...

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諄《くど》い男だ

「いや、諄《くど》い男だ。……こないだ路考が言葉尻を濁したが、わしの察するところでは、年に一度、十年がけの手紙というのを欝陶《うっとう》しがって、無情《すげ》ないことを言ってやったものと見える。その辺の消息は、一瓢《いっぴょう》がうすうす知っていて、帰りがけにわしにそんな風なことを囁いた。……つまり...

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