大袈裟《おおげさ》に手を拍《う》って

 源内先生は、大袈裟《おおげさ》に手を拍《う》って、「偉い!」 伝兵衛は、ぎょっとしたような顔で、「するてえと……?」 源内先生は、会心のていに頷いて、「いかにも、その通り。……わしの見込みでは、まず鷹か鷲。……しかし、鷹にはあれほどの臂力《びりょく》はあるまいから、おそらく鷲だろう」「うへえ、鳥ぐらいのことは、あっしだって考えますが、その鳥が源内櫛にばかり飛びつくというのはどういうわけです。先生、あなたの贔屓筋《ひいきすじ》というところですか」「下らんことを言うな。それは、そういう風に馴らしてあるからだ。……ものの本によると、中世紀といってな、西洋の戦国時代に、大鷲を戦争に使ったことがある。『戦鷲《タリーグスハビヒト》』といってな、もっぱら敵を悩ますために用いる。しからば、どういう方法を以って馴らすかといえば、敵方の兜《かぶと》やら鎧《よろい》、そういうものの上に置くのでなければ絶対に餌を喰わせん。殊《こと》に、戦争の始まる前頃になると、五日七日と餌を喰わさずにおいて放すのだから、敵勢の兜や鎧を見ると、勢い猛《もう》に襲いかかって行く。つまり、それと同じ方法で馴らしたものに相違ない」「でも、あの薄刃《うすば》で斬ったような創《きず》はどうしたもんでしょう。鷲や鷹ならば、爪でグサリと掴みかかるにちがいないから、一つや二つの爪傷ではすみますまい」「無学な徒と応対していると世話がやけてやり切れない。それくらいのことがわからんでよく御用聞が勤まるな。……言うまでもない、それは、趾《ゆび》をみな縛りつけ、その先に剃刀の刃でも結いつけてあるのさ。趾を縛っておけば、途中で棲《とま》れないから、襲撃をすませると真直に自分の家まで帰ってくるほかはない。つまり、一挙両得というわけだ」「すると、あの抉《えぐ》れたような痕《あと》は」「それは、短い外趾《そとゆび》の端が触れた痕だ」「何のためにそんな手の込んだことを」 源内先生、閉口して、

— posted by id at 04:30 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.2134 sec.

http://rate-of-exchange.org/